人間は知識である意味記憶を連鎖してネットワークとして蓄えていると言われている。例えば、「カナリヤは鳥である」、「鳥は飛べる」などをネットワークとして記憶し、カナリヤを入力すると連鎖して辿り、「鳥」や「飛べる」を想起する。 そのような意味記憶のネットワークを人間がどのように学習しているのかを説明する神経回路モデルを提案している。提案するモデルを図２に示し、概略を説明する。連合野第1層では入力がそのまま反応し、歯状回、回帰結合を持つ海馬CA3層を経由し、時系列データを海馬内で学習し、海馬CA1層に出力する。連合野第2層はaとbの二つ設け、aは個人の体験であるエピソード記憶、bは意味記憶を保持する。連合野2bでは意味記憶形成と生体で観測されているスパイクタイミング依存性シナプス可塑性(Spike-Timing-Dependent synaptic Plasticity; STDP)の関係を調べるためSTDPを学習則として用いた。STDPは結合する前後の神経細胞の発火のタイミングにより伝達効率が変化する現象のことで、生体の様々な学習の元になっていると考えられている。 図中のオレンジ色の矢印は、STDPで結合強度が変化する興奮性の神経結合を示している。 シミュレーションにより、意味記憶のネットワークを学習することができることを確認した。 Kobayashi and Murakoshi (2007) では、意味記憶のネットワークが形成できることを示し、さらに図中の緑色の矢印の抑制性の神経結合をSTDPで学習することにより例外も学習形成できるモデルを示している( Murakoshi and Suganuma, 2007 )。 例外とは、「鳥は［一般には］飛べる」時に、「ダチョウは鳥である」が、「ダチョウは飛べない」ような場合である。 抑制性のSTDPについてはいくつかの型が観測されているがシミュレーションの結果、Haas et al. (J. Neurophosiol., 2006)の観測した時間差軸に対して非対称な抑制性のSTDPのときだけ、例外の学習が成功した。 その時、必須だったのは、例外の特徴を持つ概念（鳥だけれども、飛べないという特徴を持つ「ダチョウ」）から、一般的な特徴（鳥は一般に「飛べる」）への抑制結合であった。
関連公表文献
Kazushi Murakoshi and Kyoji Suganuma. A neural circuit model forming semantic network with exception using spike-timing-dependent plasticity of inhibitory synapses. Biosystems, Vol. 90, No. 3, pp. 903-910 (Nov.-Dec. 2007).
Yusaku Kobayashi and Kazushi Murakoshi. A neural circuit model forming semantic memory from episodic memory using STDP. Electronics and Communications in Japan (Part II: Electronics), Vol. 90, No. 2, pp. 54-63 (Feb. 2007). Translated from Denshi Joho Tsushin Gakkai Ronbunshi, Vol. J88-D-II, No. 10, pp. 2134-2143 (Oct. 2005).
人間は試行錯誤の行動をして得られる結果（報酬）から学習を行い最適な行動を取得する強化学習を行うことができる。そのような強化学習のアルゴリズムが提案されているが、従来の強化学習は再学習を行うときに時間がかかるという問題があった。そこで強化学習アルゴリズムを制御しているパラメータをうまく制御し、柔軟に学習を行うアルゴリズムを提案している。図において、左上のスタートから右下のゴールまでの道筋を強化学習で学習した後（図ａ）、途中に新しく壁を設ける(図ｂ)。従来の強化学習アルゴリズムではなかなか迂回路を探し出すことができないが、提案手法では比較すると素早く迂回路を探し出すことができた。
このような新しく壁を出現させるなどの環境変化時に神経修飾物質とみたてた強化学習のパラメータを制御し素早く再学習する方法を提案している( Murakoshi and Mizuno, 2004 )。 また、強化子が確率的に出現することを考慮した拡張を行い、ラットの行動をシミュレーションしている( Murakoshi and Noguchi, 2005 )。
Murakoshi and Mizuno (2004)の方法は、Javaアプレットにて こちら で実行して見ることができます。
関連公表文献
Kazushi Murakoshi and Takuya Noguchi. Simulation of rat behavior by a reinforcement learning algorithm in consideration of appearance probabilities of reinforcement signals. Biosystems, Vol. 80, No. 1, pp. 83-90 (Apr. 2005).
Kazushi Murakoshi and Junya Mizuno. A parameter control method in reinforcement learning to rapidly follow unexpected environmental changes. Biosystems, Vol. 77, No. 1-3, pp. 109-117 (Nov. 2004).
多次元のデータを低次元（通常２次元）にマッピングする自己組織化マップのアルゴリズムの改良・利用を行っている。 多重スケールでうまく認識を行う視覚情報処理をヒントに、多重スケールの近傍関数を用いた自己組織化マップの学習方法を提案している ( Murakoshi and Sato, 2007 )。 また、自己組織化マップの勝者割合を既知感(Feeling of Knowing; FOK)とみたてて利用することにより、多層パーセプトロンの過学習を抑える方法を抑える方法を提案している ( Murakoshi, 2005 )。
関連公表文献
Kazushi Murakoshi and Yuichi Sato. Reducing topological defects in self-organizing maps using multiple scale neighborhood functions. Biosystems, Vol. 90, No. 1, pp. 101-104 (July-Aug. 2007).
Kazushi Murakoshi. Avoiding overfitting in multilayer perceptrons with feeling-of-knowing using self-organizing maps. Biosystems, Vol. 80, No. 1, pp. 37-40 (Apr. 2005).
人間の色知覚は、周辺と比較しながら行う処理をするため、色対比という現象がみられる。 下の画像の真ん中の小さいオレンジの色は、左の小さいオレンジと同じであるが左は周辺のより濃いオレンジに影響され感覚的には異なった色に感じる。これを回避するため、周りの色に影響された結果知覚的には本来の色を知覚できるようにあらかじめ変換する手法( Murakoshi and Miura, 2010 )で変換したのが右の小さいオレンジである。実際は他の小さいオレンジと色は異なるが、真ん中の比較用画像の小さいオレンジに近いように感じる。
関連公表文献